ナポレオン 3〜4巻

ナポレオン 3―獅子の時代 (ヤングキングコミックス)

ナポレオン 3―獅子の時代 (ヤングキングコミックス)

ナポレオン 4―獅子の時代 (ヤングキングコミックス)

ナポレオン 4―獅子の時代 (ヤングキングコミックス)

3巻の主役。恐らくはナポレオンを読んだ人全てが、こう応えるでしょう。
「デュゴミエ将軍だ」と(笑)。
まさしく、歴戦の老将。最後の老兵。彼以外に宿将という言葉を使うな、ってくらいに、キングオブ老将していてその格好良さに、股座がいきりたちそうです(笑)。将兵の指揮を鼓舞するため、小ジブラルタルのミュルグラーブ砦を「女」に例え、その重要性と砦を奪われたことを兵士達に身近に感じさせる演説。そして、兵士達がもっとも大切にしている、名誉を刺激する言葉。指揮も沈着で剛胆。若造でしかないヴォナパルテの作戦を採用し、その実戦との齟齬は自身の経験で補う度量。そして、ラストが渋すぎます。冒頭、デュゴミエ将軍が食事を摂っていた食堂。そこが最後にもう一度登場し、最初は将軍を馬鹿にしていた子供が喧嘩で負けて泣いて帰ってくるわけですが、にやりと振り返り「小僧…ケンカの仕方を教えてやろうか」と語りかける仕草が、たまらない渋さです。読んでいるだけで、もー小ジブラルタルたんになってしまいそうなぐらいに(笑)。このデュゴミエ将軍については、小説でもSRCのシナリオでも、老将を登場させようと考えている方は読んでみて損はないと思います。粋で年齢に相応しい経験を備えた、まさしく歴戦の猛者を教科書に載せられるくらいにわかりやすく、印象的に描いていますから。

マーラー、ダントン、ロベスピエール。世界史を習った人はほとんど知っている名前であると思います。…日本史専攻すると、学べない可能性があったりしますが(笑)。本編ではマラーが暗殺される下りから始まるので、彼についての描写が少ない事が残念ですが、ダントンとロベスピエールは、特にロベスピエールはかなり濃く描写されています。

ダントンはマラー暗殺時は、その直球的な言動と大柄で粗暴そうな印象から、野卑な人間に見えましたが、4巻でその考えは完全に覆されます。民衆に人気のあるダントンを、皮肉り嘲るサン・ジュストに対して、盟友であり親友であるロベスピエールは、「ダントンがその程度の男なら心配もせん。ダントンの声は奴の人間性そのものからでている。欺瞞でないから危険だ。市民に届く」と評しています。出張中に死亡した妻の亡骸を、墓を掘り返してまで抱きしめ、号泣するあまりにも深い情。直球的な言動は、深い人間性から滲み出ているため、野卑に聞こえることがあっても、その真摯さに皆が耳を傾けてしまう。自分を殺して、革命にすべてを捧げようとしているロベスピエールとは、まさしく外見同様正反対であるわけです。だからこそ、ふたりは対立しつつも互いを尊敬し、ダントンがロベスピエールを救ってやると考えたように、ロベスピエールも─普段の彼からは考えられぬ行動─ダントンを訪ね、罪を問われる前に姿を眩ますことを進めたわけです。人間を愛さず、革命にのみ生きるとしたマキシミリアン・ドゥ・ロベスピエールの、個を殺して理想を追い求める強靱な理性。彼の結末がどうなるか歴史を紐解けばわかってしまうのですが、とりあえず5巻を楽しみにしたいと思っています。


「かっこいいぜ、ダントン」マラーの死に様を描いた画家が、ギロチンに送られるダントンを見送りながら、投げかけた言葉がこれで、その際のダントンの不満そうでありながら肝の据わった、そんな横顔がひどく印象的でした。まさしく、男が惚れる漢と言っても過言ではないでしょう。