戦う司書と黒蟻の迷宮

戦う司書と黒蟻の迷宮 BOOK3 (集英社スーパーダッシュ文庫)

戦う司書と黒蟻の迷宮 BOOK3 (集英社スーパーダッシュ文庫)


 久しぶりに読み応えのあるシリーズに出会えて、楽しいやら嬉しいやら…とちょっとオリバ化してしまうほど、喜んでいます。シリーズ一冊目の恋する爆弾も十分に完成度が高い作品でしたが、二冊目の雷の愚者はそれを二周り上回る完成度と、超越した熱さで目頭が熱くなりました。基本的に、本を守る武装司書たちバンドーラ図書館と、神溺教団の抗争が軸にあるわけなのです。ただ、強力な武装司書に真っ向からでは歯が立たない神溺教団は、武装司書の弱点をつき(主に最強のハミュッツを狙って)綿密な策略で攻め寄せてきます。その策を用いるために、神溺教団は人の尊厳を踏みにじります。奴隷のような扱いの「肉」たちや、埋め込まれた火薬で対象を暗殺する「人間爆弾」など。
 今回登場する神溺教団の一員であるウィンケニーは、地位としては戦士でありますが、最強の武装司書の一人であるモッカニアと戦うために磨き続けていた能力でした。しかし、モッカニアの能力を無効化することはできたのですが、彼に攻撃をしかけられないという欠陥品であり、誰にも必要とされない軽視される存在となってしまいます。ですが、その後のウィンケニーが辿る、モッカニアの半生を追いかける旅。モッカニアと戦うために、彼の為だけに力を磨いてきたウィンケニーにとって、モッカニアが人生のすべてとなってしまっていたのです。モッカニアが武装司書となったいきさつ、初めて能力を駆使して殺してしまった人たちへの悔悟の念を情報を集め、足跡を辿ることで綿密に推察し、ウィンケニー母親を失ってしまった過程を経て、モッカニアの心をほぼ完全に推し量る域まで達します。本編はウィンケニーによって偽の母親を与えられたモッカニアの叛乱とその鎮圧を主軸においているのですが、この黒蟻の迷宮における肝は、このウィンケニーのセンチメンタルジャーニー(笑)であり、この部分の完成度がきわめて高いので、じっくりと読み込んで欲しいですね。GWの長い休みがやってくるので、未読の方にはこのシリーズをぜひ一読していただきたいと思います。

ところで、ウィンケニーが会いに行った彼自身の母親。彼を覚えていなかった母親って、恋する爆弾でコリオたちに宿を貸した女性でしたね。雷の愚者で、エンリケに多大な影響を与えたのがその時供に行動していたレーリエであったわけで、実にキャラクターの使い方が上手い。だから、山形先生の著作は、2度読むことで完成される気がするのです。一度目はそのストーリーを存分に楽しみ、明かされたトリックと再登場したキャラクターを思い浮かべつつ、2度目読む込むことで、「ああ、彼は(彼女は)…に打ち勝ったんだな」と。