ネタバレ全開です。見た後文句言われても困るので、
もう一度言っておきます。ネタバレ全開です。

素晴らしかった。
私は購入前、虚淵氏が1巻で語っていた、
「4巻を破り捨て、Fate/Stay nightを再プレイし、セイバーが救いを得る姿を見ずにはいられない」
という展開に、まさしくなったわけで(笑)。
時間があれば、最初からプレイしたいところだったけれど、柳洞寺での決戦の辺りから再プレイ。
ギルガメッシュがどれほど手加減しているか、セイバーがどれほどありえない奮戦をしているか、
言峰がどれほど衰えたのか、衛宮士郎がどれほど強大な相手と戦っていたのか。
そして、セイバーと士郎が、まさしく奇跡の成就としかいえないような勝利を遂げたのか。
その実感が、かつてプレイした時よりも、強く私の心に残りました。
ああ……あなたの価値だ、虚淵氏。
OK、読者(ぼくら)の負けだと、素直に兜を脱ぎましたさ、ええ本当に(笑)!!


全員について書くと長くなりそうなんで、とりあえず数人だけピックアップしていこうかと。
まずは言峰綺礼衛宮切嗣。この愛し合う二人について(笑)。
私の言峰への評価はマーボーとCV.中田譲二氏という点だけで、
切嗣への評価は、士郎の影響がすごく大きくて、悪くは無かったという事を知っておいていただきたい。
全編を読み進めていく中、言峰への感情は、大分好意的な形に変化していきました。
彼の葛藤、懊悩を考えれば、そして、自分と同じものを抱いているように見えた、
切嗣へのほとんど愛にも見える(笑)、期待……。それが裏切られた瞬間の絶望。
切嗣が切り捨ててきた幸福や愛すべき人々。
それらは言峰からすれば、全てをかけて守るべき価値があり、彼自身が望んで得られなかったモノだった。
自分が最期まで欲しながら、得られなかったモノを、妄想のような夢想の為に切り捨てる。
この時の言峰の切嗣への怒りは、我が事のように感じられ、とても彼への親近感を感じたわけです。
と同時に、切嗣への私の怒りは、MAX状態でした(笑)。
結末を知っていてなお、言峰の心底を理解してなお、
「言峰、奴を殺してくれ」と願わずにはいられませんでした。
言峰の喜びとする事は、人倫から反し、まさしく許されることではありません。
ただ、邪悪な人間が邪悪なまま生きることを許されないのか?
という点については、色々考えるところがありますが、横道へそれそうなんでこの辺りで。
で、戦犯、衛宮切嗣についてですが、この男最悪です(笑)。
本編でセイバーが、士郎の語る切嗣と自分の知る奴について、
大分隔たりがあるために、戸惑ったような事を言っていましたが、そんなレベルの話ではありません。
セイバー、もっと怒っていいはずです。
士郎を思いやるセイバーが可愛いなーと感心しつつ、切嗣への私の憎悪はアホほど高まりました(笑)。
Interludeで切嗣の過去が語られましたが、一遍の同情も共感も得られませんでした。
というより、「ああ、この男、昔からそうなんだ」と唾棄するエピソードが増えただけというか。
忌憚なく言ってしまえば、とてもマヌケなんですよ。
周到に準備を重ねて、非道に殺しているわりに、前提条件にまるで疑問を持たないという点が。
まあ、絶望の果てにたどり着いた、最期の藁なのだから、すがりつくのもわかりますけど…。
ただ、私が敬愛する征服王が、こう漏らしています。



「最果ての海を見せてやると──そういう口上を吹き散らし、余は世界を荒らしに荒らして廻った。

(中略)

余はなぁ、もう、その手の与太話で誰かを死なせるのは嫌なんだ。

聖杯の在処が確かなら命を賭けようという貴様の意気込みに報いてやることもできようが……

生憎、まだそうとも言いきれぬ。途方もない裏切りが、潜んでいないとも限らぬからな」


この台詞がなければ、切嗣が聖杯に疑いもなくすがりつき、多くの人を残虐に殺していくのを、
いまほど嫌悪し、愚かだと吐き捨てることもしなかったでしょう。
同じ作中で、真実の葉に気づきつつある漢の言葉が、私に切嗣のすべてを悟らせてしまった。
「お前、自己憐憫に浸っているだけじゃないの?」と。
結局、すべての愛するものや大切な人を切り捨てて、この男が求めたのは、世界の恒久平和
だが、私にはこう見える。彼は、ただただ、切り捨てたものより、大きな価値を求めただけ。
切り捨てたすべてのモノより、大きな価値があるモノを手に入れる事で、
それらを切り捨てたことを、「ほら、世界平和が適ったんだからOKだろ」って言いたいだけ。
本当は、なんて悲しい男なんだろうと、同情するべき所なんでしょうけど、



自分を愛し、自らも愛した大切な人達を守れなくて、

何が男か、人間かと!


正直に、嘘偽りなく言わせてもらえば…


地獄へ落ちろ、衛宮切嗣


以外言いようがないですね。そして、恐らくその通りになりましたし。
彼についてはこのあたりにしておきましょう。碌な事書きそうにありませんから(笑)。
ただ、明言しておくとすれば、
リドリーは、衛宮切嗣が大嫌いだと。それだけは包み隠さず表明しておきます。
ええ、地獄へ落ちろと(笑)。


ライダー・イスカンダルウェイバー・ベルベットについては素晴らしいとしか言いようが無いです。
最初から魅力的なコンビでしたけど、まさかここまで感動させてくれるとは思いませんでした。
劣等感だけでイスカンダルを召喚したウェイバー少年が、彼の召喚した稀代の英雄の影響を受けながら、
成長していく様が描かれていて、ほとんど主人公と言ってもいいキャラクターでした(笑)。
ただ、これが聖杯戦争でなければね…( TДT)。
むしろ、私的には聖杯が願望機として完成されていたものだったなら、
イスカンダルに世界を征服してもらいたかったほどです。いや、マジで。


「あの馬鹿娘は、余が正しく征してやらねば永遠に道を踏み誤ったままだろうて。

それでは、あまりに不憫すぎる」


見捨てておけばいいのに、セイバーに対するこの気遣い。
あまりの優しさと度量の大きさが、もう、惚れ惚れするばかりです。
実際、ここでイスカンダルに敗北し、セイバーが彼の軍門の下、供に戦ったなら…。
…駄目だ、それでもギルガメッシュに勝てる姿が思い浮かばない(笑)。
けれど、そうしたなら、セイバーは多少救われていたような気もしますが…。
結末を知っていてなお、心躍ったのはイスカンダルギルガメッシュの戦いでしょうか。
例によってイスカンダルが、ギルガメッシュに盟友とならないかという問いを発し、
拒絶されはしますが、ギル自身、征服王を高く評価している様子。
この二人の戦いは、あまりにも悲しいはずなのに、
そこに相容れぬけれどお互いを理解しあった王の意志があるため、
まさしく英雄譚を見ているようで、それをまぶたに焼き付けたウェイバーのように、
私も涙がとまりませんでした。
この破格の英雄については、どこかでなんらかの形で、
さらなる活躍をさせてあげたいと思うのですが、さてはて…(笑)。
しかし、やっぱりエルキドゥが持ち出されるんですよねー。
いや、イスカンダルのステータスを見たときにこうなるとは思ったんですが。
でも、あんなに優しい言葉を相手にかけるギルは、珍しいですよね。


最後にセイバーについて。
ああ…なんて、哀しいとかそういう言葉を尽くしても尽くしきれないというか。
サーヴァント・バーサーカー=サー・ランスロットとの戦いも、
戦いというよりセイバー=アルトリア・ペンドラゴンへの弾劾という様相で、
見ていて胃の辺りが痛くなって痛くなって…。
そして、ランスロットが狂化したまま逝けば問題なかったのですが、
正気を取り戻した彼が漏らした哀しみに満ちた言葉がもう…。
この戦闘が終わった時点で、SRC的に言えばセイバーの気力は70くらいではないでしょうか(笑)。
そしてギルガメッシュ戦。
いや、もはや戦闘とは呼べないレベルのもので、
これも結末をほとんどの方がご存知だと思いますが、
衛宮切嗣の裏切りによって、聖杯を破壊され、セイバーは送還されます。
第4次聖杯戦争開始時にはセイバーの願いは、こうでした。
「故国ブリテンを滅びの運命から救う」
しかし、戦いが終わった後の彼女の願いは、こう変わりました…。
そう、私たちが知っている…


「こんな自分は──そもそも、王になどなるべきではなかったと」


この願いについて、どういう答えが出されるかは、Fate/Stay nightをプレイしてください(笑)。


総じて面白かったです。
こんなに続刊を待った小説は、ここ数年で存在しましせんでした。
確かにFate/Stay nightという作品がなければありえない本ですし、
事前知識も必要、Fate/Stay night事態をプレイしていないと、
その真価を掴むことができないかもしれません。
けど、もし、Fate/Stay nightをプレイした人なら、
この用意に入手しがたい本を、是非とも読んでいただきたい。
これはもはや、Fateという作品の、欠かざるべき大切なピースなのだから。


最後に、虚淵氏へ。
素晴らしい物語をありがとうございました。苦しみの中であなたが勝ち得るであろう、以後の作品のハッピーエンドを、
一ファンとして楽しみにさせていただきます。