猫探偵カルーソー (扶桑社ミステリー)

猫探偵カルーソー (扶桑社ミステリー)

比喩ではなく、本当に猫が事件を解決します。
イタリアの水の都ヴェネツィア。事件はこの静かな町で起こる。
そして、その事件は一向に解決をみないません。
夕暮れ時、不吉な事件の噂を聞いたヴェネツィア猫のボスの一人カルーソーは、
その美声を響かせるのを暫しやめ、こう、演説をうつ。


「みんなも知っているように、
人々は何よりもゴンドラと運河に惹かれてここへやってくる。
もし、ゴンドラに死体が横たわっていて、
何が起きたのか確かなところはわからないとしたら、
しだいに観光客の足は遠のくだろう。」


そしてそれは商店や市場の規模の縮小にもつながり、
自分たち猫がおこぼれを預かる機会も減るだろう、
そして何より、名誉あるヴェネツィアの猫としての名が汚されてしまうと。
ゆえに、我々猫がこの問題を解決しなくてはならないと。
……ここで、え?と思う間もなく、カルーソーからもう一つの懸念事項、
「何者かに猫仲間が誘拐されている」
という話が仲間達にされます。この後のカルーソーの演説が格好いいのですが、
まぁ、それは伏せておきます。ちょっと惚れるんで(笑)。


なんというか、猫がこれだけの知能を誇っている理由は、
まったく説明されません(笑)。だが、それがいい私はこの小説をここまで読んだ時点で、
荒木飛呂彦先生のジョジョを思い浮かべました。
荒木絵で、あの擬音で、猫が喋る。
それが私の中で形を得た瞬間……、
もはや、抱いていた些細な疑問は消えました。
「いいじゃん、猫喋っても」と(笑)。


実はこの後、カルーソーの出番は後半までなく、彼の部下の片目のウーノや、
愛らしく蠱惑的なメス猫ラファエッラ、彼女に横恋慕するヤクザ猫マッシーモ
そしてその相棒でいとこのヌンツィオなど、個性あふれる猫たちが、
さまざまな誘惑(温かい寝床・美味しい食事)に妨げられながらも、
ヴェネツィア猫としての誇りをもって、事件解決に奔走します。
その姿、その心意気はまさに、
ジョジョの黄金の精神といって過言ではないでしょう。
カルーソーの恋人であるカミッラという猫は、
実に賢く細やかな判断のできる猫なのですが、
あまり容姿がよろしくないため、
ボスの伴侶としてはふさわしくないと思われています。
だが、その彼女が、まさしくその賢明さで事件を解き明かし、
みなの信頼を得ていく様は、
カルーソーでなくとも涙したくなるシーンであるといえるでしょう。


犯人を捕らえるのは人間(前述のカミッラの飼い主の刑事)がやるのですが、
逃げ込んだクラシックコンサートの劇場へ、
猫たちが現れて行く手をさえぎるシーンは圧巻です。
最初はコンサートを台無しにされたと憤慨していた人間たちも、


ヴェネツィアの猫たちよ、永遠なれ! 世界一、勇敢な猫たち!」
「ねえ、あの片目の猫までが法と秩序のために戦ったのよ!」


と褒めそやします。
このシーン、私は聖闘士星矢エピソードGのサガvsクロノスを思い出しました。
アテナ神像の前で強大なクロノスとたった一人戦う、
双子座のサガ。
そんな彼の奮闘を、聖域の人々は、


「アテナ神像の下で誰かが……闘ってくれている!!! 
オレ達の……いや、この地上にある全ての命の──未来を造る為に、
命を懸けてくれている!!!」


と、まったく戦闘の風景が見えないのにコメントしています。
このカルーソーと共通することは、
舞台がイタリアであるということですが、
つまり、私の言いたい事は、
「イタリア人はノリがいい」という事です(笑)。
ナンパ男が多く、地面にウ○コ落ち放題らしいですが、
そんな事はどうでもいい。
この熱さ、ノリの良さがヴェネツィアであると(笑)。


ああ、忘れてましたけど、猫誘拐事件も、この後ちゃんと解決します。
実は冒頭の殺人事件については、
ちょっとした謎が残りましたけど、
治安を回復し、町の英雄となった猫たちが幸せに暮らしたので、
後は良しとしましょうか(笑)。


余談ですが、巻末にある猫が主役、
または脇役として重要な位置を占める小説、
の分類わけの紹介はなかなか役に立ちます。猫小説に興味がある方は、
それだけでもご覧になってはいかがでしょうか。