鋼の錬金術師 25 (ガンガンコミックス)

鋼の錬金術師 25 (ガンガンコミックス)


評価 8/10



今回はアルフォンスとブラッドレィ大総統に、焦点を絞ってみたいと思います。


アルフォンス・エルリックは長い間、自分自身の失った身体を取り戻すことを望んできました。
眠れない身体、一人の夜は嫌だetc……などに彼の深い苦悩がにじみ出ています。
さらに、エドの血で魂を鎧に固定して効果が薄れている=いつ消えるかも知れないという恐怖。
それらに苛まれてきました。


にもかかわらず、今回、待望した自分の身体に出会えたというのに、
骨と皮だけの脆弱な身体では、最終決戦で兄や仲間達と戦えないという理由で、
渇望し続けた自分の身体と一旦決別し、戦場へ赴くアルフォンス。
全は一、一は全。錬金術の思想ですが、それを骨身に染みて理解しているから、
いままでの旅と、出会い、別れ、そして挫折と成長をしえているから、
だからこそできた決断ではないでしょうか。


25巻の表の主役は間違いなく、彼であると言ってもいいでしょう。


裏の主役というなら、キング・ブラッドレィ大総統です。
かつて、マスタング大佐にホムンクルスとしての矜持について話をしましたが、
彼は極めて人間的ですよね。
プライドと会話をしていた時も、レールを外れた事が起こることが楽しいと言っていましたし。
与えられた大総統としての地位、そしてその人生。けれど、妻だけは自分が選んだと。
その後も、たびたび人間に、冷徹にお父様の計画の歯車として動いてはいるのですが、
それを覆されることに、自分ではできないことを強い信念を持った者が、
やってくれていることに、楽しみを覚えているように見えます。


そして、ブラッドレィ大総統最後の敵が、傷の男。
その戦いに興じる大総統の表情の、なんと満足げであることか。
任務や地位やその他すべてのしがらみから解き放たれて、
彼が本当に純粋に一個の魂として
(ブラッドレィという名も、ホムンクルスという生も、
与えられたものなので敢えて個々では彼と呼びます)、
命を賭して戦う姿が実に、その形相と激しさに似つかわしくなく、


穏やか


に見えたのはなぜでしょうか。