上泉信綱 (人物文庫)

上泉信綱 (人物文庫)


8/10


上泉信綱の人生を追うような本になっていますが、
彼の前半生は、長野業正に仕えて戦っている武将という側面が大きいのですよ。
だから、新陰流と彼の剣理については、後半から密に語られることになってます。
あと、武田信玄北条綱成など、有名な武将や大名が出てくるので、
彼らの説明やら解説が多くて、信綱はその時こういう事をしていた、
文献はないけど多分こうだった、
という感じの話で信綱について知りたい衝動を抑えがたい場合は、
けっこう物足りなかったりします。


ただ、定説はこうなってて、A文献ではそれを裏付けているけど、
B文献とそれを調べた○さんの意見ではこうで、
自分もそれを当時の状況を鑑みれば妥当だと思うので、恐らくこうだろう。
というような思考経路を冷静に示してくれているのは、
非常に参考になりますし、実際、面白いんですが、
そこで「信綱ならこうに違いない!」という熱い憶測みたいなのが飛んで、
でも、それがさらに面白くて、著者の永岡先生が、
本当に信綱好きなんだと思わせる情熱が、好感持てました。

あと、世間に流布している誤った活人剣について、
きちんと信綱が主張した活人剣について述べられているので、
かなりタメになりました。
宗矩のそれとも、また違うそれは非常に魅力的でした。


ままならぬ前半生、信玄の元を出て、剣術弘流の旅に出る後半生。
有名な剃髪し、僧侶の袈裟を借りて悪漢から子供を助け出す逸話。
以前から漠然として、暖かい人であろう事は推測しておりましたが、
透徹したその人格の一端に触れて、さらに敬愛の念を強くしています。