ずっと見たかった宝蔵院胤瞬vs柳生十兵衛
色々と問題があった窪塚洋介版で評価している点の一つが、胤瞬役の方が非常にイメージ通りで、
殺陣も見事としかいいようがなく、実はそこを見ている時点では非常に期待してたわけです(笑)。
まぁ、窪塚が色々台無しにしましたが。
それはともかく、実に凄絶で恐ろしい戦いでしたが、決着に至る過程があっさりしてるから、
転生衆がそんなに強く見えないかなーって思ったので、原作での胤瞬との対峙の場面を抜粋してみました。

 宝蔵院胤舜の技倆については以前からきいている。一般の世評とはべつに、かつて彼が父の但馬守に再度敗れたことを知っている。その父が、あれは剣客というより政治家だというこれまた世評とはべつに、まことに恐るべき技術の所有者であることは承知していても、それでも父に敗れたということによって、胤舜の手並みのめどはおぼろげながらつけていた。
 が――ちがう!
 いま相対した宝蔵院胤舜は、まったく十兵衛の推察を絶したものであった。いちど五尺のその黒い姿が七尺にもふくれあがって見えたが、次の瞬間、それはスルスルと縮まり、槍の穂の向こうに消えてしまった。


十兵衛は父親である宗矩に敗れたという辺りから、胤瞬の技量を推察していたが、
対峙してみたらそれを越える技量で、やばいぞとなった彼の心中が描写されています。
今回も柳生十人衆のうち、二人が活躍し、一人が命を落とす訳ですが、十兵衛自身が内心で吐露しているのですが、
実際の所三人娘の警護に(十兵衛が転生衆と戦いながら三人娘を守るのは無理)連れてきた十人衆の存在に、
棒太郎戦の時も、今回の胤瞬戦の時も救われている部分があります。
大雑把ですが、強さを数値化すると、十兵衛を9とするなら、転生衆は11〜13とかあって、
まともにやり合うと勝ち目がなかったわけです。
胤瞬にはストレート勝ちじゃないって見えますが、あれは胤瞬が十兵衛を殺そうとしたわけでもなく、
右腕を落とそうと考えており、そこでの手心の部分が勝敗を分けた感があります。
ここで重要な因子が柳生十人衆で、慶之助の機転で胤瞬を倒す事に成功しました。
前回、五太夫が刀を捨てて石段を転げ落ちることで棒太郎の虚を突き、十兵衛に必勝の機会を与えたように。
ここまで来たら言わんとするところが分かると思いますが、十兵衛が転生衆と戦うに当たって足りぬ部分を、
十人衆が埋めてくれているわけです。
彼らは目だった強さを見せたり、人外を圧倒するような鬼気を発する訳ではありませんが、
この旅が終わる頃には、読者は彼らが必要不可欠な人々であったと記憶しているでしょう。
私同様に。


あと、Y十Mの時と同様、最初に出てきた女の子より、後から出てきた敵方の女の子がヒロインになる山風作品。
今回、お品の心の動きが、殆ど台詞がないなか、その動きや表情で雄弁に語られており、
原作読者も思う所があったでしょうし、未読者の方も心動かされたのではないでしょうか。
私としては原作のあの下りは、非常に切ないのですが、十兵衛には状況がまったく掴めず、
お品の思いだけがかろうじて理解できた程度なので、そこにせがわマジックが働いてくれる事を祈っています。
具体的には喇嘛仏ラスト辺りの解釈を。