私たちは石ではありません

コンシェルジェ 2巻

コンシェルジュ 2 (BUNCH COMICS)

コンシェルジュ 2 (BUNCH COMICS)

主人公の最上というホテルマンは、おっちょこちょいですが、穏やかな人物で、めったに怒りません。この2巻ではそんな彼が珍しく、憤ったというよりは奮った話が描かれています。横領犯として手配され、逃げ回っている君島という男が、ホテルでフルートを弾いている娘に一目会いたいとやってくるのですが、大門部長刑事(西部警察)によく似た刑事達に捕らえられてしまいます。その時、彼は自分の娘について語るのです。自分が犯罪に手を染めたのは、音楽の才能が無いことで家族にも当たり散らし、仕事も上手く行かなかったから深みにはまってしまったのだと。そして、娘の演奏を聞いてみたいとは思っていても、自分に輪を掛けて才能がなかった娘は、どうせ大した奏者になってはいないだろう…と。
「自分の娘に才能が無いからあきらめろとは言えんだろう? しょせん石ころはいくら磨いてもただの石でしかない」

この言葉を聞いた最上は、かなり厳しい面構えになります。そして、いつもの通り魔法の手帳で問題を解決するのです。そのおかげで娘の演奏を聴いた君島は驚愕します。自分よりも才能が無かったはずの、娘がなぜ…。最上は、素材が鉄になるまで不遇であったフルートという楽器について触れ、最後に…

「あなたの言う通り、彼女が才能に恵まれなかった人間だとした
ら、今日まで彼女は、いったいどれだけの努力を積み重ねて来た
のでしょう。あなたは…何かお間違えではありませんか?」

とここで冒頭の言葉に繋がるわけです。この後、大門部長刑事もちょっと泣かせることをしてくれるのですが、人間をこよなく愛するからこそ、愛するが故に、拭いきれない心の傷を持つ男が語る様はいいものです。実はこの2巻の後半の話で、最上の人間観の根底を垣間見える話があるのですが、会わせて読むと考えさせられるものがあります。