うしおととら Vol.3 風霜に舞うひとひら

 この巻です。日輪、可愛いよ日輪というお話(笑)。作者の城池先生は、さらりとした文体で、幾つもの伏線を綺麗に張って、それを上手に回収していく手腕が見ていてほれぼれします。
 「お前が男ならばなぁ」と父親に言われながら育って、獣の槍伝承者候補にまで上り詰めた日輪。彼女の法力僧として修行に打ち込むそのひたむきさの源泉は、父親の言葉だけでなく男性社会に対する、彼女自身の憤りでもあります。それに対して、ある意味ねじ曲げられてしまった、日輪として、白煉という女性の元法力僧が登場します。彼女も女性というハンデを克服すべく修行に勤しんでいたというのに、その思いを最悪の形で裏切られてしまいます。そんな白煉が、日輪にかつての自分を見たということ、そして、この話の核になる咲という半妖の少女。日輪は彼女を妹のように思い、自身が技の伝授を願ったことで、咲の父親が命を落としたのでは…という悔悟の念も持ち合わせています。白煉は、産んでから一度も出会っていない自分の子供に、咲を重ねます。同じ思いを抱いたというのに、白煉が敗北してしまったのは、自身に対するゆらぎ…のようなものなのでしょう。複雑すぎて、単純に言い表せないのがもどかしくはありますが…。
 平易な文体ですが、なかなかに濃い内容を展開しているので、もしも古本屋さんでみかけたら、読んでみてはいかかでしょうか。挿し絵は例によって藤田和日郎先生が描いてますし(笑)。