アルスラーン戦記 11巻 魔軍襲来

魔軍襲来 ―アルスラーン戦記(11) (カッパ・ノベルス)

魔軍襲来 ―アルスラーン戦記(11) (カッパ・ノベルス)

オラベリアのような脇役を魅力的に描ける点が、田中芳樹先生の美点なのですが、今回、白鬼(バラフーダ)=ドン・リカルドのような、一部読者も忘れ去ってしまったようなキャラクターを面白い役どころで起用するその手腕も、なかなかに頼もしいものがあります。大軍を指揮できるほどではないけれど、訓練されていない老人や女子供を使って、倍以上いる荒くれの盗賊を打ち破る用兵。4人の騎士を相手に、一歩も退かない剣術。そして、ちょっと女性に手が早い(笑)。エステルではありませんが、できるだけ中枢から離れて、幸せになって欲しいキャラクターの一人です。パリザードも、人を見る目があるというか(笑)。

エステルの再登場によって、アルスラーンエステルのカップリングが復活したのですが、やはり彼女は故郷に残してきた同胞を見捨てられないでしょうし、元侵略者のルシタニア人を王妃に迎えるというのは、また問題が大きすぎます。クリアするべき課題が多いのですが、実現不可能ではありません。ただし、それにはまた、パルスが戦火にまみえねばなりませんが。ザッハーク一党やヒルメスファランギースたちと今回は様々な国へ散らばった、第一部のキャラクターの場面転換が多かったのですが、読み進めているうちに思い出すものですね(笑)。私としては、「待ったかいがあった、最高のできだ!」というほどではありませんが、充分に満足がいくアルスラーンの新刊であったといえるでしょう。ただ、極度に放置プレイが好きな作者ですので、人には勧められませんけれどね(笑)。

古本屋に早くも並んでしまったのは、角川から出版されなかった事への抗議か、仕込み巻だったからかもしれません。まあ、私としては、大規模な会戦も好きなのですが、こういった日常を主にしたストーリーも好きなのですよね。でも、12巻はさすがに誰か主要人物が死にそうです。とくにペシャワール城に寄っている人たちが、危険です。

さてはて、12巻は一体いつ発売されることか。今度は10年くらい待たされるかもしれません(笑)。