センゴク外伝 桶狭間戦記(5) <完> (KCデラックス ヤングマガジン)

センゴク外伝 桶狭間戦記(5) <完> (KCデラックス ヤングマガジン)


評価 9/10

まず、一巻が衝撃的でした。
今川義元公って、大概の歴史漫画で格好悪い描かれ方してますよね。
ゲームなんかでもそうですが……。
信長の最初のステップアップ相手のような。
いや、それだけならまだしも、お歯黒塗って蹴鞠けってたり……。
貴族趣味というか、ああいった格好は身分の高い人にだけ許されているので、
むしろその貴種っぷりを象徴していると認識してたのですが、
無能な人っぽく、イロモノキャラっぽく創作では描かれているのが、
私はとても不愉快でした。
だから、この桶狭間戦記の義元公像は(ちょっとイケメンすぎますが)、とても嬉しくて嬉しくて、
いいからみんな読んでくれと、大声で叫び出したい気持ちにかられました。


下克上が跋扈する戦国時代において、下克上される側であるにもかかわらず、
まるでする側であるかのような覇気と、戦国大名としての風格を備える義元公。
桶狭間戦記ではやんちゃな感じに描かれていましたが、
人懐っこく、鷹揚で、ややもすれば呑気にすら見える彼が、
父親の作った名法である仮名目録にさらなる法を追加して、
戦国時代の統治に即した法度とすることで、柔軟に状況に対応する力。
そんな彼が、やんちゃな時代を過ごし、父のように、兄のように慕う、
太原雪斎の元で、戦の駆け引き、政治外交、権謀術数まで学び、
まさしく戦国大名として完成していく様が描かれています。


桶狭間のもう一方の主役、信長公についても、
生い立ち、少年時代から丁寧にかかれますが、
正直、私はこちらはあんまりいらなかったと思ってます。
だって、信長については、
もう、十分すぎるほど様々な媒体で描かれてきてしまっているので、
いまさら彼の生い立ちとか別に、このストーリーではどうでもいいなと思ってました。
それより、信長の父親、弾正忠の器用っぷりが素晴らしかったです。
松平に対する駆け引きで、裏をかいて、策謀を尽くして、
ようやく勝ったと思ったら鬼手で、武千代を奪取。
ただ、あの敗北が、雪斎の言うとおり義元公を大きくしたと思います。


話は逸れましたが、この桶狭間戦記では、
このストーリー独自の信長像が描かれていきました。
唐鏡の申し子、時代を光で照らそうとする義元公と、
あくまで秩序と時代の破壊者であるのですが、
その心底には弱さを抱え、それゆえに誰よりも強くあれる信長公。
強者である義元公と、弱者である信長公の戦い。
……この為に、3巻まで使ったというのがすごい。ああ、でも、もっと戦争が見たかった(笑)。
もっと、義元公の治世が見たかった……。


これ、言われているように、太原雪斎が生きていたら……。
彼が桶狭間まで居たら、義元公の天下が見られたかもしれません。
今川幕府が出来ていた可能性も、わくわくしながら思い描けますね。
しかし、時代は義元公を選ばなかった。
ああ、それでも、彼の生き様をもっと見たかった……。
同じ事を何度もいいますが、それだけ彼に惚れ込みました。
久しぶりに、どっぷりと楽しませてもらいました。ありがとう、とても、面白かった。