史上最強の弟子 ケンイチ 50 (少年サンデーコミックス)

史上最強の弟子 ケンイチ 50 (少年サンデーコミックス)


9/10



ティダード王国編最大の功績は、シルクァッド・ジュナザードが最後まで、
己に忠実に生きた邪悪な人であったことであったと思います。
非難しているのではなく、彼は善良な人の多いこの作品において、
最初から邪悪な存在として登場し、邪悪に行動し、それを貫き死んでいったからです。


殺人拳・活人拳の違いはあれど、立場上敵である一影九拳の達人達も、
殆どが堂々としており、武人としての矜持に殉じ、
残忍であったとしても、弟子には懐深く、武術的に外道ではなかったからです。
ある意味、ティダード王国編の主人公ともいえる本郷は、
それこそ武人として立派な男であり、彼と逆鬼師匠は思想の違いのみで、
まさしく表裏の存在であるのではないでしょうか。
ガイダル、ディエゴは殺人を躊躇わない精神ではあっても、
弟子に対しては優しく接しており、殺人・活人で思想は別たれたと言っても、
正邪でいうなら正であるといってもいい達人たちでした。
アーガードは、殺人に禁忌がないだけで、
その精神性は活人の師匠達よりある意味人格者で(笑)、
もしかするといままで出て来た達人級で、一番できた人だったんじゃないでしょうか。
ラフマン、美雲師匠達は、細部に関してはまだよく分かりませんが、
弟子への接し方は、非道ではないのでジュナザードほどではありません。
この漫画には、師匠と弟子の不文律があります。
それは、師匠級の者は弟子に手出しをしないというものであり、
殺人拳・活人拳問わず達人級の者達なら、守っている習わしです。
ジュナザードは、それを易々と破りました。
奸計を廻らし、洗脳を施し、あまつさえ、自身の弟子すら使い捨てにして、
「あの程度の弟子ならすぐ作れる」と言い放つ始末。
そういう謀の人なのかと思いきや、作中最強クラスの強さを誇っています。
武人としての誇りに、命をかけて、武術的な部分では非道をしない達人たちの中にあって、
ジュナザードの外道っぷりは、ある意味、強い印象を与えてくれました。


登場してきた時、私は「これでいい人だったり、途中で翻意したら微妙だけど、
達人級の人物だし、ケンイチ世界だからそうなるかな」と思ってましたが、
そんな素振りは少しも見せず、その思想が明らかになるにつれて、
ケンイチ世界のタブーを、どんだけ破るのかと楽しみに見守ってきました。
彼には彼の長年培った考えがあるのでしょうし、
達人として身心を鍛えてきた一廉の人物なのです。
それが、あの短時間で、いい人に成っては興ざめなので、
武術で凝り固まって、自分本位になり、外道に落ちた達人の完成形として、
最後まで存在感を出し続けてくれて、満足しています。


美羽のシーンは、思いもかけない弟子の行動に意表を付かれただけです。
あの瞬間、もし彼が歪んだのだとしたら、歪む前の英雄と呼ばれた頃の、
正しい心根の彼が、顔を出したのかもしれません。
でも、最後まで邪悪さを貫いてくれて、感服しました。


しかし、この一連の出来事って、美雲師匠が仕組んだ事なんですよね。
来たるべき「久遠の落日」に際して、
明らかにスタンドプレーとりそうなジュナザードを、
梁山泊の達人たちを使って始末するという謀略。
作中で、強い達人が沢山出て来て、強さを計りかねるときがありますが、
絶対的な基準として、梁山泊の長老が存在します。
美雲師匠はかつて長老の同士で、袂を別つ事件があった人物。
ジュナザードは、長老が強いと表したシラットを納めた武人。
ジュナザードがその強さを遺憾なく見せてくれたので、
美雲師匠があれに匹敵する強さだとしたら、
やりあえばどちらかが命を落とすでしょう。
一影九拳が、直接、戦うのは御法度のようでしたから、
上手いやり方で始末したなぁと思ってました(笑)。
本当は、美羽も始末するつもりだったのでしょうが、
普通にパワーアップイベントになってしまったのは誤算でしょうか。


後、全貌が明らかになってない武人は、一影その人と、
美雲師匠と、ラフマン(ちょっと戦いましたけど決着ついてないです)。
強豪揃いなので、いつ戦うのか非常に楽しみです。