ビフォア・ウォッチメン:ミニッツメン/シルク・スペクター (DC COMICS)

ビフォア・ウォッチメン:ミニッツメン/シルク・スペクター (DC COMICS)


9/10

ミニッツメン6点 シルクスペクター3点くらいで。



一番期待大だった出だしのロールシャッハ/コメディアンが、
あんまり面白くなかったので、続刊は買わないなぁと思っていたのですが、
偶然読んだ書評で非常に興味を惹かれて買ってみました。
シルクスペクターは、普通の話で、二代目のローリーが、
様々な経験を経て母親の後を継ぐって感じのストーリーです。
ただ、それでも前の巻よりは面白かった。
これを、ミニッツメンは凌ぐのか。と、興奮して読み始めました。
ちなみに、ミニッツメンの後にシルクスペクターがあったので、
ある意味、順番逆に読んでましたが問題は無い(´ω`)。


ミニッツメンの感想というと、忌憚無く言って面白い。
ウォッチメン本編では、まぁ当然と言えば当然なのですが、
ロールシャッハ達クライムバスターズの前進である、
ミニッツメンについて語るいとまが在りませんでした。
ミニッツメンは、生きているナイトオウル1世(ホリス)と、
シルクスペクター1世(サリー)くらいがまっとうな生活を歩んでいるだけで、
ある人は精神病院行きとなり、ある人は無惨な最期を遂げ、
ある人は任務の最中に命を落とし、ある人は失意の内に〜と、
悲惨な最期を遂げていました。
だからこそ、そのミニッツメンの結成から、解散までの流れを、
当時の世界情勢を組み込みながら作っていったこのストーリーは、
非常にウォッチメン的で、こういう外伝をビフォアウォッチメンとして読みたかった。
そう思わせるものがあって、読後感が爽やかなものではないのですが、
むしろ一抹の寂寥感とやるせなさがあるのですが、
それすらウォッチメン的なモノとして、楽しませていただきました。


今回、ミニッツメンの多くのキャタクターが背景を膨らませ、
ヒーローになった成りたち、バックボーンを作り込まれていきました。
中でも本編で無惨な死を遂げたという過去の記録しかなかった、
レズビアンのヒーロー、シルエット。
フタを開けてみたら、彼女こそがミニッツメンにおいて、本当の意味のヒーローでした。
幼い頃の悲惨な記憶から、子供が誘拐されてポルノの餌食になる犯罪を追って、
その魔の手から幼い命達を守る。
ミニッツメンにスポンサーができ、児童ポルノ摘発のような重い犯罪は放っておいて、
ギャングを倒すなどと言う派手で分かり易い、明るいヒーロー像を築こうという意見に、
彼女は失望して、自分自身の意志を通していきます。
ホリスやモスマンなど、協力してくれる仲間もいました。
その時に追っていた事件は、悲しい結末を迎える事になります。
でも、彼女によって救われた命はあり、救われた心もある。
ビフォアウォッチメンのミニッツメンという物語で、
もっとも色鮮やかに血肉を与えられたのが、
シルエットという名の彼女だということが、非常に興味深いと感じました。


表に出た事実と、裏に隠された真実。
ウォッチメンでもそうでしたが、ミニッツメンにも存在しました。
ラストのくだりが、とてもウォッチメン的だと感じましたが、同時にこうも思いました。
シルエットというヒーローは、私にとって恋人と一緒に殺された哀れな女性でした。
この、ミニッツメンを読むまでは。
でも、供に戦ったホリスによって語られたシルエットは、
上記の通りの尊敬するべき人であり、その真実をいままで私は知らなかったわけです。
このミニッツメンを読む事で、シルエットの人柄に触れる事ができました。
後から作られた外伝なので、勿論、本編を踏まえた前日談になっています。
それでも、その真実に触れられたことが非常に喜ばしいものでした。
ビフォアウォッチメン。1巻の微妙さを覆い隠す完成度でした。


絵柄が原作に近いというかちょっと古い時代のアメコミの絵柄なんですが、
あの絵柄が逆にいい味わいを出していると思います。
あれだけで倦厭している方はもったい無いので、読んでみましょう。
ただし、ウォッチメンの基礎知識が必要なので、
映画だけでも見ておくといいかもしれません。