ガンパレード・マーチ 九州奪還〈5〉 (電撃文庫)

ガンパレード・マーチ 九州奪還〈5〉 (電撃文庫)


評価10/10 


榊先生のガンパレードマーチもこれで終わりだと思うと(外伝があるようですが)、
哀しくはありますが、5121小隊や学兵、自衛軍将兵が戦いから解放されるなら、
その事は嬉しく思っています。
銀河英雄伝説で、ヤン・ウェンリーは、


「恒久の平和なんて人類の歴史上なかった。だが何十年かの平和で豊かな時代は存在できた。
それでも、その十分の一の期間の戦乱に勝ること幾万倍だと思う」


というような事を言っていました。これは、悲観論ではなくて、そのちょっとした平和を掴み取るために、
自分たちは命をかけて、まあ、伊達と酔狂を持ちつつですが、戦い抜くのだという覚悟を、
彼の人柄がにじみ出る言葉で表したものだと思います。


かつて敵であったカーミラと、幻獣急進派の南王殺害による戦争終結
という共通の目的のために、手を組む九州派遣軍と日本政府。
ただ、やはり、数千の人々を一気に焼き殺したカーミラに遺恨を抱くモノは沢山いまし、
感受性の強い萌なども、その一人でした。
この二人の憎しみ、怒り、やるせなさと、そして笛の音がもたらせた和解のシーンは、
戦争という状況下にあって、それこそ絵画のようなシーンで、感動しました。


身体を損ないながら、己一人の強さではなくて、支えてくれる人と歩む強さを手に入れた壬生屋未央。
主役に慣れないながらも、最後まで普通の人として戦争を戦い抜いた、滝川陽平。
正義最後の城として、心を鎧で覆って、屈せず怯まず、まさしく人類の守護者として会った芝村舞(私の嫁)。
舞の子分として、心優しき殺戮者となりながら、友や仲間への優しさを失わなかった速水厚志。
多くの友の死、心の確執を越えて、最後まで戦い抜いた紅稜女子戦車小隊。
守りきれなかった命をかかえつつ、それでも大切な仲間のために戦った合田小隊。
そして、この一戦を支えるために無理に無理をかさねた、緻密なペシミスト善行忠孝。
最後の戦争に従軍した、多くの将兵達。
そして、あちらの世界の者でありながら、人の姿を持って降り立ったカーミラ達。
なぜ、弱い人間が、存在が兵器である彼ら幻獣に勝利しえたのか。


本編で語られますが、幻獣も実はあちら側の世界の人間であるわけです。
ただ、その心が人のそれではなくなってしまった。
人でなくなったと言う事は、人を殺しても相手の痛みが分からなくなると言う事です。
痛みがわからないのであれば、残酷に冷酷に幾らでも殺すことができるわけです。
ただ、その強さの核には弱さがあります。力を得た代わりに、その核は脆弱です。
ひるがえって人間は弱いのですが、そのもろい心の中にある、
強さの核は強靱で、実にしたたかです。


南王を葬った力、精霊手。速水と舞とブータが連携し、放った希望の光。



「孤独な魂ではあれは使えないんだ。使っても自らを傷つける。
だから、舞に応援してもらったんだよ。だから手を握ってもらったんだ。」


孤独な中、5121小隊に辿り着き、芝村舞に出会い、
多くの死を見つめ、やりきれない現実を越えるなか、
仲間達と供に戦い抜き、手に入れた彼の力が、一人では使えない力。
ここに、大きな人間賛歌を感じます。この下りを読んだだけで、この物語に触れた幸福を噛みしめました。


最後に、ガンパレードマーチという作品が、榊先生によってまさしく新しい命を受けたことに、
榊先生がこのお話を書いてくれたことを、私はすでに信仰する神を持たないので……、
作中に登場した動物たち、猫たちに感謝して、終わりたいと思います。


ガンパレードマーチをプレイされた方。是非、読みましょう。心に得るものが非常に多いですよ。
間違いなく言えます、お奨めであると。