- 作者: 榊涼介,きむらじゅんこ
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2009/01/10
- メディア: 文庫
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評価10/10
榊先生のガンパレードマーチもこれで終わりだと思うと(外伝があるようですが)、
哀しくはありますが、5121小隊や学兵、自衛軍の将兵が戦いから解放されるなら、
その事は嬉しく思っています。
銀河英雄伝説で、ヤン・ウェンリーは、
「恒久の平和なんて人類の歴史上なかった。だが何十年かの平和で豊かな時代は存在できた。
それでも、その十分の一の期間の戦乱に勝ること幾万倍だと思う」
というような事を言っていました。これは、悲観論ではなくて、そのちょっとした平和を掴み取るために、
自分たちは命をかけて、まあ、伊達と酔狂を持ちつつですが、戦い抜くのだという覚悟を、
彼の人柄がにじみ出る言葉で表したものだと思います。
かつて敵であったカーミラと、幻獣急進派の南王殺害による戦争終結、
という共通の目的のために、手を組む九州派遣軍と日本政府。
ただ、やはり、数千の人々を一気に焼き殺したカーミラに遺恨を抱くモノは沢山いまし、
感受性の強い萌なども、その一人でした。
この二人の憎しみ、怒り、やるせなさと、そして笛の音がもたらせた和解のシーンは、
戦争という状況下にあって、それこそ絵画のようなシーンで、感動しました。
身体を損ないながら、己一人の強さではなくて、支えてくれる人と歩む強さを手に入れた壬生屋未央。
主役に慣れないながらも、最後まで普通の人として戦争を戦い抜いた、滝川陽平。
正義最後の城として、心を鎧で覆って、屈せず怯まず、まさしく人類の守護者として会った芝村舞(私の嫁)。
舞の子分として、心優しき殺戮者となりながら、友や仲間への優しさを失わなかった速水厚志。
多くの友の死、心の確執を越えて、最後まで戦い抜いた紅稜女子戦車小隊。
守りきれなかった命をかかえつつ、それでも大切な仲間のために戦った合田小隊。
そして、この一戦を支えるために無理に無理をかさねた、緻密なペシミスト善行忠孝。
最後の戦争に従軍した、多くの将兵達。
そして、あちらの世界の者でありながら、人の姿を持って降り立ったカーミラ達。
なぜ、弱い人間が、存在が兵器である彼ら幻獣に勝利しえたのか。
本編で語られますが、幻獣も実はあちら側の世界の人間であるわけです。
ただ、その心が人のそれではなくなってしまった。
人でなくなったと言う事は、人を殺しても相手の痛みが分からなくなると言う事です。
痛みがわからないのであれば、残酷に冷酷に幾らでも殺すことができるわけです。
ただ、その強さの核には弱さがあります。力を得た代わりに、その核は脆弱です。
ひるがえって人間は弱いのですが、そのもろい心の中にある、
強さの核は強靱で、実にしたたかです。
南王を葬った力、精霊手。速水と舞とブータが連携し、放った希望の光。
「孤独な魂ではあれは使えないんだ。使っても自らを傷つける。
だから、舞に応援してもらったんだよ。だから手を握ってもらったんだ。」
孤独な中、5121小隊に辿り着き、芝村舞に出会い、
多くの死を見つめ、やりきれない現実を越えるなか、
仲間達と供に戦い抜き、手に入れた彼の力が、一人では使えない力。
ここに、大きな人間賛歌を感じます。この下りを読んだだけで、この物語に触れた幸福を噛みしめました。
最後に、ガンパレードマーチという作品が、榊先生によってまさしく新しい命を受けたことに、
榊先生がこのお話を書いてくれたことを、私はすでに信仰する神を持たないので……、
作中に登場した動物たち、猫たちに感謝して、終わりたいと思います。
ガンパレードマーチをプレイされた方。是非、読みましょう。心に得るものが非常に多いですよ。
間違いなく言えます、お奨めであると。