オールスター:スーパーマン (DC COMICS)

オールスター:スーパーマン (DC COMICS)



10/10




いまの世の中では彼の素朴な正義、優しさが受け入れられなくて、しょんぼりしている事が多く、
ファンの一人としては心を痛めていましたが、この作品ではそんな彼の魅力が存分に発揮されています。
ネタバレしてしまうと、この作品で彼は命を落とします。
でも、その死は凄惨なものではなくて、マン・オブ・スティール。
鋼鉄の男としての強さ、そして、クラーク・ケントカル・エルとしての、
素朴でありながらも懐深い優しさに満ちた物語であり、死という最期がありながらも、
読後感が悪いものではなく、非常に穏やかな気持ちになりました。


印象に残るシーンは幾つもあるのですが、私があげるならアトラスとサムソンという、
オリンポスに属する神がやってきた時の話を一つ紹介したいと思います。
神であり強大な力を持つというのに、非常に傲慢でクラークの大切なロイスをピンチに陥れます。
まぁ、その際になにかあったら協力して助けると言ってくれてるんですが、
だったら最初からちゃんとしてろよ神様って思ってしまうので、印象はよくなりません(笑)。
クラークも頭にきてたのか、その後の腕相撲勝負で二人同時に腕をへし折ってしまいますが。
なにが言いたいのかというと、強大な力を叡智を誇るはずの神ですら、
傲慢で先を見ない行動をするというのに(しかもこの二人はタイムトラベラーですらあります)、
純粋に仲間や友人を大切にする心を持ち続けるクラークの精神の強さは、
私にはとても貴重なものに思えます。
彼ら神々との対比で、その気持ちは強くなりました。


あと、後半の戦いでソラリスという太陽のヴィランと戦うのですが、クラーク自身、
身体が限界に近く、孤独の要塞を守るロボット達が追随し、一緒に戦ってくれます。
日本だとロボットにも人格が認められたり、萌えの対象になりがちですし、
なにより私自身が喋るロボット大好きで友達になりたいと常々思っています。
ですが、アメリカでは工業用品であったり道具と変わらない使い捨ての存在です。
それにスポットが当たり、クラークが感極まるシーンが描かれるというのが、私にとって印象深いものでした。
それと、サン・イーターのくだりはやばいです。クラークの哀しみは、私の哀しみでした。
ソラリスへのクラークの怒りは、私の怒りでした。
そのくらい、一連のシーンは感情移入の度合いが強くなってしまいました。


ドゥームズディとの戦いでスーパーマンは一度命を落としています。
スーパーマンの最期という名で邦訳されてもいます。
あれを読んだ時、私は悲しくてしかたなかったのを覚えています。


「私は……今こそ心を捨てた! コイツより無情で残忍になるのだ。それより……勝つ道はないッ!」


ああ……クラークにそんな台詞を言わせないでくれと。
ただ、だからこそ、この時のクラークは命を落としてしまったのであろうとは感じましたが。


オールスター:スーパーマンは、グラント・モリソンのクラークへの尊敬と愛が込められた作品です。
実の所、何人か知らないキャラクターが出てきたりしましたが、
解説を読んでその用法の巧みさに舌を巻きました。
モリソンはいつからこの話を考えていたんだろうか、と。
彼はきっと、私と同じクラークが好きなんだろうと。
孤独の中で強くあり、危地にあってこそ優しさを失わない。
クラークの素朴な正義感と、純粋な優しさ。
その魅力を描いてくれたモリソンに、ただただありがとうと言いたい。