黒博物館 スプリンガルド (モーニング KC)

黒博物館 スプリンガルド (モーニング KC)

藤田先生にしては珍しく、主人公のウォルターが美形でちょっとびっくりしました。
ただ、そこは富士鷹…いや、藤田先生らしく、熱い主人公に仕上がっています。
まず、放蕩者で捻くれた人物としてウォルターを見せ、
物語の進展と供に、彼の不幸な…物質的には満たされていても、
精神的には空虚極まりない少年時代を読者に見ます。
この辺りで、ウォルターに対する最初の印象が、代わってくるはずです。


そして、彼がその後の自棄と暴力の日々から立ち直る契機、
彼が愛しつつも、その思いを告げることができない、
メイドのマーガレットとの邂逅……。
バネ足男の仮面を被ったウォルターを、


「では私があなたの母上に代わって、叱ります」


と張り倒すマーガレット。
そう、そこには、ウォルターが少年時代に求めてやまなかった、
一対一できちんと人に向き合う、当たり前だけど大切なものが存在したのだから。
そんなマーガレットが、ウォルターの下に奉公にやって来て、
彼の知人の弁護士に見初められる。


この辺り、ウォルターの苦悩が私には感じ取れます。
きっと、自分のものにしたかったはずです。
けれど、彼には自身への負い目があります。
だからこそ、大切なマーガレットには、きちんとした男に嫁いで欲しい、と。
しかし、まぁ…理屈では分かっていても、感情は納得できない事があるものです。
ほら、それが、人間ってものだから。
結局、ウォルターは、マーガレットとは結ばれず、話は終わります。
ただね、藤田先生の素晴らしい事は、その後の物語できっちり、
その救済をしていることでしょうか。


スプリンガルドの真骨頂は、ボーイ・ミーツ・ガールをこれでもかってくらい、
やってくれている「マザア・グウス」をお読みになってください。
きっと、ラストのウォルターのおっかない顔が、
とてもいい笑顔に見えるはずですから。